Sibelius 2023.5

複数パートを持つ1つの譜表から各演奏者用の独立したダイナミックパートを作成

Sibelius 2023.5のリリースでは、ダイナミックパートに全く新しい機能が追加され、また、その他多くの便利な機能も追加されました。

ダイナミックパートは、スコアにリンクされた楽器パート譜を自動的に作成することで、長年にわたって作業時間を短縮してきました。この機能により、演奏者の譜面台に置かれた印刷された楽譜と、指揮台に置かれた楽譜が確実に一致するために役立ちます。

これまでも、譜表を組み合わせてパート譜を作成したり(パーカッションのパート譜などに便利)、パート譜とフルスコアの間で独立したレイアウト設定を行うことは可能でした。テキストやその他のオブジェクトの表示・非表示も可能でした。では、Sibeliusのダイナミックパートに、新しく追加された機能を見ていきましょう。

ダイナミックパートの限界は、スコア上の譜表を組み合わせて各演奏者のパート譜を作成することにあります。フルスコアでは、あるセクションの演奏者の譜表を組み合わせて使うのが一般的で、現実的には、指揮者のスコアの縦のスペースを節約し、スコアを読む効率を高めるために有効です。

1 Full score

しかし、各演奏者に個別のパート譜が必要なこともよくあります。上の画像は、クラリネット、ホルン、ファゴット奏者がそれぞれ1段の譜表を共有しているパート譜です。

Sibeliusの以前のバージョンで2つの独立したパート譜を作成するには、複数の声部の和音やパッセージの個々の音符を各演奏者のパート譜に分割し、フルスコアからパート譜を抽出して、2つのファイルに分けて作業を行う必要がありました。これでは、元のフルスコアと各パート譜のそれぞれのファイルで、変更点が反映されているかどうかを常に確認する必要があります。つまり、演奏者が増えると、たくさんのスコアを管理することになります。

Sibelius 2023.5では、元の譜表を2つのダイナミックパートに分割する機能があり、以下のようなことが初めて実現できるようになりました。

 

2 Full score 2 horn players

左がホルンのパート譜を組み合わせたフルスコア、右が個別のホルンのパート譜

 

各演奏者のパート譜は、既存するお馴染みの機能を使って簡単に作成されました。

3 Creating Horn 1 part

 

ここでは、個々のホルンのパート譜の作成方法を、説明用のアニメーションを交えて簡単に説明します。

  1. 必要な小節を選択します(パート譜全体でも、1パッセージだけでもかまいません)。

  2. ホーム > 選択 > フィルタ を選択し、演奏者カテゴリー内の[奏者2]を選択します(このパート譜上で非表示にしたい演奏者のため)。
  3. 最後に、ホーム > 編集 > 表示/非表示 を選択するか、アニメーションで行ったようにCommand+Shift+HMac)またはControl+Shift+HWindows)のショートカットを使って、非表示にします。

 

これで、このパート譜から奏者2を隠し、数秒でホルン1のパート譜が作成されます。Sibeliusで行ったこの処理は奇跡的としか言いようがありません。これはダイナミックパートなので、フルスコアや他のパート譜はこの処理の影響を受けません。同じように他のパート譜も続けて作成することができます。

これらすべてを可能にするために、和音内の個々の音符を非表示にすることができるようになりました。これまでは、和音内の一部の音符を非表示にしようとすると、和音全体が非表示になりました。音符を非表示にすることはSibeliusにとって非常に簡単なことですが、真の賢さは、非表示のオブジェクトの周りの音符を調整するときに発揮されます。

上のアニメーションを見ると、声部2の音符や和音内の下部の音が非表示になっているだけでなく、休符、ライン、テキスト、小節休符までが、まるで奏者2の音符が存在しなかったかのように再配置されていることがわかります。

 

Sibeliusが自動的に再調整するようになったものは以下です。

  • 符尾の方向—和音や声部で分割された演奏者のパッセージのために、周囲の状況に基づいて符尾を再構成します
  • タイやその他のラインは、音符の周りで再構成されます—複数のタイ間や、L.V.でも動作します
  • 括弧付きの符頭は、必要な音符だけを括弧で囲います
  • 連桁の角度は再構成され、必要に応じて符尾を反転させます
  • アルペジオとトレモロは、長さと位置が調整されます
  • アーティキュレーションは、表示されている音符の上または下になるように移動します
  • 付点は、譜表上の適切な場所に移動します
  • 音符が非表示の場合、臨時記号は小節上で次に表示された音符に表記します
  • 小節が完全に空になると、小節休符が挿入され、他の空の小節と隣り合うと、マルチレストが作成されます
パート譜についての注意点

Sibeliusでは、さまざまな方法で新しいパート譜を作成できます。つまり、新しいスコアにパート譜を自動的に作成します。モバイルでもデスクトップでも、新しいパート譜を作成したい楽器を選択し、コマンド検索から「パート譜を作成」を検索し、選択することができます。

これにより、新しいパート譜が作成され、表示されます。左上の楽器名を編集することで、そのパート譜の名前を適切な演奏者名に変更することができます:

4 Edit part name

モバイル版でのパート譜の操作については、こちらのビデオをご覧ください

 

新しい環境設定と記譜ルール

非表示の音符や休符を含む小節の表記や動作を微調整するのに役立つ、新しい記譜ルールや環境設定を多数追加しました。

●新しい記譜ルール

外観 > ハウススタイル > 記譜ルール を選択するか、Command+Shift+EMac)またはControl+Shift+EWindows)のショートカットを使用して、ウィンドウを表示します。

  • 臨時記号と付点:非表示の音符の臨時記号を自動更新
    この機能はデフォルトで無効になっており、音符を非表示にすると、小節内でそれ以降の臨時記号が更新されます。音符と臨時記号を非表示にし、それ以降の音符は臨時記号を表示せずに半音階的に移動させて再生したい場合は、この機能を有効にします。
  • 小節休符:小節内のすべての音符と休符が非表示の場合は、小節休符とマルチレストを使用
    この機能はデフォルトで有効になっており、小節の内容が非表示になったときに小節休符を作成し、マルチレストに合併します。
再生のパフォーマンス

再生 > 解釈 > パフォーマンス を選択して、ウィンドウを表示します。

  • 非表示オブジェクト:非表示の音符を再生
    この機能はデフォルトで無効になっており、個々の演奏者のためにパート譜を作成する際に、そのパート譜で演奏されない音符を非表示にすると、それは再生されません。ですが、非表示ながら再生したい音符がある場合は、これを有効にすることで、再生されます。
●環境設定

ファイル > 環境設定 を選択してウィンドウを開き、音符の入力ページを表示します。

  • 編集:非表示の音符や休符を含めたスペースの変更
    この機能はデフォルトで無効になっており、音符を入力・編集しているときのみ適用されます。音符の間隔をリセットしたときの動作は変わりません。無効の場合、表示されているスコアに基づいたスペースの変更を行い、非表示の音符や休符は無視されます。有効にすると、スコアの編集や入力の際に、すべての非表示の音符や休符も考慮します。非表示の休符を使用して、音符の間隔を強制的に調整させたり、固定させたりする場合は、これを有効にします。

 

音符間隔をリセット

音符間隔をリセットするには、2つのコマンドが利用できます。外観 > 音符をリセット >  音符間隔をリセット を選択するか、Command+Shift+N(Mac)またはControl+Shift+N(Windows)のショートカットを使用すると、表示されているスコアの音符間隔をリセットすることができます。小節内に非表示の音符や休符がある場合、このコマンドはそれらを無視します。次の例のように、演奏者を非表示にした後にスコアでスペースの変更が必要なパート譜において、非常に便利です:

6 Respace shown notes

(以前のバージョンのSibeliusと同様に)非表示の音符や休符を含んでスコアのスペースを変更したい場合、コマンド検索から新しいコマンドの「音符間隔をリセット」を起動してください。


アクセシビリティ

スコア上で非表示のオブジェクトを選択したときに聞こえる新しい説明を追加しました。スクリーンリーダー(WindowsNarratorApple macOSiOSVoiceOver)は、オブジェクトが非表示のときに「hidden」と言うようになりました。


Manuscriptプラグイン言語

非表示の音符に関する新しい言語が追加されました。詳細は、ManuScript PDFガイド(英語)をご覧ください。

  

ファイル形式

Sibeliusの新しい機能や性能に伴い、新しいバージョンで保存されたファイルの内部ファイル・バージョンを更新することがよくあります。まだアップグレードしていない人と一緒に作業する場合は、ファイルを以前のバージョンのSibelius用にエクスポートする必要があります。これは、SibeliusMac版とWindows版でのみ利用可能です。

これを行うには、ファイル > エクスポート > 前のバージョン を選択し、送信する相手が所有するバージョンを選択します。

7 Export to previous version

ショートカットの改善点(デスクトップのみ)

今回のリリースでは、環境設定キーボードショートカットページ(ファイル > 環境設定)に待望の2つの機能を追加しました。新しい[機能を検索...]フィールドで、機能を検索できるようになりました。

 

Sibelius20235-1

探している機能名の一部または全部を入力し、[検索]をクリックするだけです。また、ショートカットをシンプルなHTMLファイルで書き出すことができるようになりました。様々なオプションがあり、カテゴリーごとのグループや順番を変えてショートカットをエクスポートすることができます。エクスポートされたファイルは1つのHTMLファイルなので、プリントアウトしたり、スマートフォンやタブレットで開いたりするのにとても便利です。

 

Sibelius20235-2

ブラウザーでこのように表示されます。

Sibelius20235-3

その他の改善点

これまでのリリースと同様に、今回も改善点とバグフィックスがあります。

新しいサンプルスコア

2023.5には、新たに2つのサンプルスコアが追加されました。カール・ライネッケの「八重奏曲 Op.216」の最終楽章は、新しいダイナミックパート機能を巧みに使用しています。また、ジョセフ・ハイドンの「ソナタ Inhalt」の楽譜浄書家イルカイ・ボーラ・オーダーによる、スコアの冒頭を使って目次を作成する例もあります。

11 Haydn Contents

バグフィックス

クイックスタートが一新され、譜面用紙や最近使用したスコアをより確実に検索して開くことができるようになりました。

  • ギタータブ譜の最下行にある2つの音符の間のスラーが、高すぎる位置に配置されないようになりました
  • ダイナミックギター譜の音部記号の変更が、タブ譜ではなく、五線譜にのみ表示されるようになりました
  • ダイナミックギター譜に拍子記号の変更を加える際、スラー、テキスト、その他のオブジェクトが重複することがなくなりました
  • iOSでのBluetooth MIDIによる音符入力の信頼性がさらに向上しました
  • iOSでマルチタスク機能を使用して複数のアプリを開いている際に、Sibeliusや他のアプリの再生音を聞くことができるようになりました
  • Sibelius全体で、翻訳に関するいくつかの改善点があります
  • 2023.2リリースでManuScriptに追加した[Export Selection As Audio]プラグインが、新しい[Export Audio]を含むことで、改良されました
  • Macでリボン・ギャラリーでドロップダウン内を検索する際、下矢印でリスト上に入れるようになりました(つまり、奏者1や奏者2のフィルターが簡単にできるようになります)
  • 新しいパート譜やサブスコアを作成する際に、パート名がリセットされなくなりました

以上です!このブログを最後まで読んでいただき、ありがとうございました。今回のリリースに追加された機能や改善点を楽しんでいただけると幸いです。次回のリリースについては、また後日お知らせします。

このアップデートは、WindowsMaciPhoneiPadで利用可能で、Sibeliusのサブスクリプションまたは永続版ライセンスのソフトウェア・アップデート+サポート・プランをお持ちの方は、AvidアカウントのMy Productページからデスクトップ版をダウンロードできます。モバイル版は、App Storeから最新のアップデートを入手することができます。

旧バージョンのSibeliusを永続版ライセンスでお使いの方は、こちらから最新バージョンにアップグレードできます(次年度のアップデートも含まれます!)。Sibeliusの新機能については、Sibelius最新情報をご覧ください。

 

Sibeliusをまだご存知でない方は、こちらから30日間の無料トライアルをダウンロードできます。

 

※新機能の用語は、予告なく変更する場合がありますのでご了承ください。